こんにちは、パラレルブロガーのゆーすけ(@yusuke_plmrstn)です。
東シナ海で発生した石油タンカー沈没事故。
奄美大島にはすでに重油が漂着していて当面の間はこれが続くと見られ、さらにコンデンセートの影響が不透明ということで、我々が安心して暮らせる日々はいつやってくるのか心配です。
漁業や観光、そして自然への影響は甚大で、ゆくゆくは損害賠償という話にもつながるであろう今回の事故。
でもそもそも今回の石油タンカー沈没の責任はどこにあるんでしょうか?
この記事の目次一覧
事故発生時の状況
2018年1月6日に東シナ海で衝突、その後14日に沈没した石油タンカー船 MV Sanchi(サンチ号)。
事故が発生した場所はおおよそこのような位置関係にありました。
残念なことに両船のAISが不自然なぐらいに1月6日以降取得することができず、衝突した場所はおおよその場所として考えて下さい。
(AIS:船の現在地や速力、目的地などの船舶情報を自動送信するための装置)
まず沈没したMV Sanchiですが、メディアで公開されている写真を見ると船体右舷中央部あたりが最も激しく炎上していることから、相手船MV CF Crystalが衝突したのは右舷中央だったと推察されます。
次に貨物船MV CF Crystalですが、衝突後に舟山市で撮影されたと思われる写真を見ると船首が大きく凹んでいることから、ここがMV Sanchiの船体に衝突したものと思われます。
南の位置から北進して韓国に向かっていたMV Sanchi、そして北西の位置から南西の中国に向かっていたMV CF Crystal。
それから推測すると、両船が衝突した瞬間の位置関係は次のようなものだったと思われます。
これを衝突寸前まで巻き戻して考えてみると、それぞれの針路からおよそ次のような位置にいたはずです。
洋上でお互いの針路が重なっていて横切ることが想定される場合、世界の航法では相手を右側に見る船が自船の針路を譲らなければならないというルールが存在します。
つまり今回のケースでいうとMV SanchiがMV CF Crystalを右側に見る位置にいるため、ルールに則るとMV Sanchiに回避義務が生じ、針路を譲らなければならないということになります。
回避義務を持つ船を『避航船(MV Sanchi)』、譲られる側の船を『保持船(MV CF Crystal』といいます。
針路を譲る方法は2つあります。
1つ目は避航船が減速して相手船を先に行かせる方法。
もう1つは避航船が針路を変更して道を譲る方法です。
減速する場合はわかりやすいですね。速力を落として相手船が自分の前を横切るのを待ち、再び速力を上げればいいだけです。
一方の針路を変更して相手船に道を譲る場合ですが、このとき避航船は必ず右側に舵をきって針路を譲らなければならない義務があります。
ところが今回の事故では避航船MV Sanchiの船体右舷にMV CF Crystalが真正面から衝突していることから、単純に考えると回避義務があるはずのMV Sanchiが右側に舵を切ってないことが原因で貨物船と衝突したように見えます。
すると今回の事故は一方的にMV Sanchiが悪かった、回避義務があるにも関わらず回避行動を取ってないMV Sanchiが責任を負うべきだと捉えがちです。
しかし実は道を譲られる側の保持船MV CF Crystalにもこの時に別の義務が発生しています。
それは避航船MV Sanchiが回避行動を取っている間、その回避動作が自船との衝突防止に十分かどうかを見張っておく義務があり、もし回避行動が不十分でこのままいくと衝突の恐れがあると判断した場合はMV CF Crystal自らも回避行動を取る義務があります。
衝突事故が起きたのは1月6日の午後8時頃なので辺りは暗く、目視ではなくレーダーで相手船をしっかり捉えていたはずです。
それでも何らかの原因でMV SanchiがMV CF Crystalの存在に気づかずに回避行動を取れてなく、このままでは衝突してしまうと判断したらMV CF Crystal自ら減速するなり右に舵をきるなり回避行動を取る義務があります。
船主が激しく損傷したMV CF Crystalの写真を見る限りでは真正面から衝突しているようにも見え、MV CF Crystalが右に舵をきって回避しようとしたかどうかはハッキリしません。
回避義務があったのはMV Sanchi側であることは確かで、本来は右に針路を変更してMV CF Crystalに譲らなければならないところ、衝突跡を見る限りではMV Sanchiが回避義務を怠っていたように見える、しかしMV CF Crystalも衝突の危険を予期したのであればすぐさま適切な回避行動を自ら取る義務があり、それが十分に行われたかどうかは不明だ、といえます。
不確定要素が多い
海にはAISに映らないような小さな船や漁船がたくさんいます。
タンカーや貨物船はそれらを避けながら走る必要があり、お互い衝突の危険性があるとわかっていても周りの漁船を巻き込まないために教科書通りの回避行動が取れないシーンがよくあります。
現役の船長に話を聞いたことがありますが、こういう時はどちらかが減速すればまず衝突事故は起きないのだそうですが、「相手が減速するだろう」という思い込みが原因でヒヤッとする場面が多々あるそうです。
今回の事故は現場に2船以外の漁船などが周りにいたのかどうか、どちらかが回避行動を取ろうとしたのかどうか、両船の間でしっかりコミュニケーションが取れていたのかどうかなど、現時点で判断の決め手になるようなものがなく、不確定要素がたくさんあります。
実はこれらを解決するための最後の手段がVDRと呼ばれるいわゆるブラックボックスというやつで、総トン数3,000トンを越える全ての船に装着されていて、すでにその解析が進められているのです。
待たれるブラックボックスの解析結果
船に装着されているブラックボックス(VDR)には天候、レーダー画像、音声、速力、無線、針路など、航海中のあらゆるデータが記録されています。
事故があった時の証拠となる最後の砦がブラックボックスで、記録されたデータは海難裁判などでの重要な判断材料になります。
MV SanhiとMV CF Crystalのブラックボックスはすでに回収されていて、関係者立会のもとオープンされました。
その時の様子は「MV Sanchiのブラックボックス、現在解析中!画像あり」を御覧ください。
データ解析に加え、事故発生時の詳細把握、責任の所在を突き止めるまでに最長2ヶ月かかるとイランは声明を出しました。
適切な回避行動を取っていたかどうかは航海データを見れば一目瞭然です。
車の事故と同じでどちらか片方にのみ100%の責任が行くことはなく、過失度に応じて責任の範囲は変わってきます。
船、貨物の経済的損失に加え、日本に与える環境への被害に対する保証など、今後はまだまだ目が離せないことがたくさんあります。
一刻も早く事故原因の究明が必要ですね。
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