こんにちは、パラレルブロガーのゆーすけ(@yusuke_plmrstn)です。
2018年1月6日に東シナ海で衝突、その後14日に沈没した石油タンカー船 MV Sanchi(サンチ号)。
海底115メートルの箇所に沈んだ本船からは積み荷のコンデンセートと重油が漏れ出していて、付近の海洋環境の汚染だけでなく、黒潮に流されて日本への影響も想定されます。
詳しくはこちらの「流出するコンデンセートと重油が日本に及ぼす影響と被害とは?? | ムクッといこう」を御覧ください。
今回はちょっと視点を変え、沈没したMV Sanchi(サンチ号)に焦点をあてて簡単に基本事項を見てみたいと思います。
この記事の目次一覧
MV Sanchiについて
MV Sanchiは石油タンカーです。
2008年2月に韓国のヒュンダイ重工で建造され、全長274m、幅50m、深さ(甲板から船底まで)23m、積載トン数164,000トンという超巨大船で、平均速力15.4ノット(=時速28km)で航行することができます。
乗組員32名が1ヶ月以上も海の上で共同生活を送る場でもあり、MV Sanchiには事故当時30人のイラン人船員、2名のバングラディシュ人船員が乗船しており、32人全員が亡くなったとされています。
下のリストは事故当時MV Sanchiに乗船していた32名のCrew Listです。
関係者が公開したんでしょうね。
📝اسامی 32 خدمه مفقود شده در حادثه #نفتکش ایرانی در آبهای چین pic.twitter.com/SPxKwKeVNn
— جام جم آنلاین (@jamejamCPI) 2018年1月7日
(事故で焼け焦げたMV Sanchi、MarineTrafficより)
本船はスエズマックスというサイズで設計されています。
スエズとは地中海と紅海を結ぶスエズ運河のことで、この運河を通峡することができる最大サイズの船を意味します。
貨物船でもパナマ運河を通峡できる最大サイズのパナマックス、ボーキサイトの主要積出港であるアフリカ・ギニアのカムサ港に入港できる最大サイズのカムサマックスなど色々な呼び方があります。どうして最大船型にこだわって建造されているかというと積み数量を極限まで増やし、1航海の採算と効率性を高めようとする荷主と運航会社の意思の現れです。
DNVとは
MV SanchiはDNVに登録されている船舶です。
DNVとは船を登録、管理、審査する協会の1つで、本部はギリシャのオスロに存在しています。
これらの協会は船級協会と呼ばれ、日本にある船級協会はNK(Nippon Kaiji Kyokai)と呼ばれます。
船には車でいう車検のような定期検査が義務付けられていて、定期的に船級協会による船体構造チェックや書類チェックをパスしないと運航することが出来なくなってしまいます。
事故後、DNVは「MV SanchiはしっかりとDNVの定期検査をパスした船である」と声明を出しました。
要するに自分たちの検査が甘く、それが事故の一因になっているということは断じて無いと早々に言い切ったわけです。
MV Sanchiの船名
まず僕は今回の事故に関する記事の中で常に MV Sanchiという表現をしています。
このMVというのは “Motor Vessel” の頭文字を取った表現のことで、世界を走るほとんどの船は船名の前にMVを付けて表記されます(たまにMS=Motor Ship、またはMT=Motor Tankerということもあります)。
しかし実際に船名を呼ぶ時は Sanchi とだけ言い、MVはあくまでも書類やメールなどで船名を記載する時に使う表現です。
さてそんなMV Sanchiですが、DNVに登録されている情報を見ると過去の船名履歴に複数の船名が載っていることがわかります。
建造された2008年にはSaman、4年後にSepidになり、同じ年にGardenia、さらにSeahorseと船名を変更し、翌2013年には同じSeahorseのまま船籍国を変更し、2016年から現在のSanchiとして運航しています。
実は船の世界において船名がコロコロ変わるのは何ら不思議なことではありません。
船の所有者は船主(せんしゅ、オーナー)と呼ばれますが、船を売ったり買ったりして船主が変更になると船名を変更するのです。
船名に使われる言葉は船主の意向を反映することが多く、例えば地域の守り神の名前から取って命名したり、会社としてずっと使い続けている言葉を含ませたり、子どもと同じ船名にしたりと、そこはセンスが問われます。
Sanchiとはインドにある遺跡のような建物で同名のものが存在していますが、果たしてここから名前を取っているのかどうかは定かではありません。
余談ですが、日本国内限定で運航する内航船には「がんばろう、日本丸」という変わった名前の内航船がいます。
これでも立派な船名です。
MV Sanchiのオーナーと運航会社
MV Sanchiを所有するのは香港にある Bright Shipping Ltdという会社です。
船の業界、特に今回のような世界中どこでも航行する外航船の場合、ペーパーカンパニーを登録上の所有者に設定することが多く、このBright Shipping Ltdもその1つだと思われます。
これを専門用語で登録船主、英語では Registerd Owner といいます。
運航会社はNITC(National Iranian Tanker Company)という国営イラン石油会社で、中東で最大規模を誇る会社です。
東シナ海で貨物船と衝突したのは2018年1月6日、それから4日後の1月10日にNITCは次のような記事を自身のHPで公開しています。
The National Iranian Tanker Company (NITC) says given despite the high level of damage to the stricken Iranian oil tanker near China, it is unlikely that it sinks.-NITC
「MV Sanchiはそう簡単に沈みはしない」
この発表からわずか10日後、本船は沈没しました。
ブラックボックスの解析がカギ
海底115メートルの場所に沈んでしまったMV Sanchiですが、事故発生当時の音声や記録を残したブラックボックスが本船からすでに回収され、内容が解析されています。
すでに解析作業は開始されていますが、結果が出るまでにはまだ時間がかかるとされていて、早期の対応が求められています。
ちなみにブラックボックスはこんな見た目をしています(MV Sanchiのブラックボックス、現在解析中!画像あり)。
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